音楽の覇権争い―iTuneに挑むレコード大手
【パラダイムシフト】
あなたは好きな楽曲はどうやって手に入れていますか?音楽CD、それともiTunes? きっと若い人たちを中心に1曲からでも購入できるiTunesを利用している方が多いのではないでしょうか。
アップルのiPodとiTunesが登場して以来、音楽の世界に大きな
パラダイムシフトが起こり、米国でのデジタルメディアの売上は昨年10~15%も増加した半面、CDの売上は20%も落ち込んでいるとのこと。そんな事態に、大手レコード会社はどう局面を打開しようとしているのでしょうか。
5月17日号の
タイム誌Global Businessの記事
「次善の策―デジタル購読とニューメディアでレコード会社はこの不安な時代を乗り切れるか」("Going Alternative. Can digital subscriptions and new media steer record companies through uneasy times?",page 41-42, TIME issued on May 17, 2010)に、そのカギとなる取材結果が載っていました。
【苦境続くレコード会社】
20%も売り上げが落ち込んだとはいえ、音楽CDの売上は市場全体の3分の2を占めており、今すぐにレコード会社が破たんに追い込まれるということではありません。しかしながら、市場での音楽CDの総額は2000年の265億ドルから2009年には170億ドルまで縮小する半面、
iTunesなどのデジタルメディアの売上は年々上昇しつつあるのも事実です。
さらにレコード会社にとって頭が痛いのは、大物アーチストのレコード会社離れです。レコード会社に依存しなくても売れるアーチストは、束縛のない小さな音楽企画会社などと提携する例や自分のアルバムに投資してくれる投資家に頼る例などが出てきているのです。
突き詰めれば、ギタリストのEd O'Brienが言うように
「音楽業界が危機的なのではなくて、レコード業界が危ないだけだ。音楽ファンや新しいバンドにとっては今の時代はすごくいい時代なのさ。」ということなのかも知れません。そう、僕らにとっては安くていい音楽がいろいろなチャネルで聞けるのですから。
Radiohead guitarist Ed O'Brien says, "the music industry isn't in crisis, the record industry is; it is an unbelievably good time to be a fan of music and new bands."
【レコード会社の新たな試み】
そんなレコード会社の苦境の中、明るいニュースが出てきました。最近、Damon AlbarnのバーチャルバンドGorillazの
「プラスチックビーチ」("Plastic Beach")というアルバムが発売1週目で20万枚という大ヒットとなったのです。なぜか。それは、そのアルバムが単なるレコードアルバムではなく、そのアルバムに記載されている登録コードでGorillazのウェブサイトに接続すると、ゲームや漫画VTRやライブ映像など
様々な付加価値が楽しめることにあります。
この例にとどまらず、レコード会社もiTunesに対抗すべく様々な手を打ってきています。例えば、マーケットリーダーのユニバーサル・ミュージック。同社はケーブル会社のVirgin Mediaと月12ドルの固定料金で同社関連の音楽ならいくらでも聞けて、ダウンロードできるサービスをイギリス国内で始めようとしています。iTunesの利用者が月平均35ドル音楽に使っていることを考えれば有望なサービスかもしれません。しかし、Sony Music、Warner Music、 EMIなどのライバル会社が追随する様子は今のところないうえに、そんなサービスを始めても飛びついてくるのは週末に50ポンドも使う30代~40代のマニアくらいだという声も聞かれます。
また、you tube、テレビなどとの連携なども有望かもしれません。あのスーザン・ボイルを世に送り出したのはまさにテレビとYou Tubeによる世界的なブームだったのですから。
いづれにしてもどれだけ音楽を聴く側のニーズに的確にすばやく応えることが出来るかにレコード会社の存亡がかかっていることは間違いないようです。今のところ、レコード会社にはiTunesほどの革新的なプラットフォームが編み出せているとは言えないのが難点ですが。
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